たのしくあるために選んだ生活スタイル*後編*ウィヴァネストペンギン@京島

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ウィヴァネストペンギンとサテライトキッチンの向かいには、いつもおいしそうな匂いを放つ総菜屋さんが並んでいます。それがよりこの路地を昔ながらの通りにしているのかもしれません。そんな路地が通学路になっているのか、ガヤガヤと賑やかな音を立てながら、小学生が通り過ぎていきます。ちょうど取材したのがエキスポ期間だったこともあって、中には「ここでヴァイオリンが聞けるんだよ」と口にする小学生までいたり。それだけではありません。インタビュー中も定休日なのに、通り過ぎる人が度々、あいさつに顔を出してくれるのも印象的でした。もちろん、営業中ならもっとそんなあいさつや、なんでもない世間話に花を咲かせているのだけど。道幅約3mという狭い路地が、あるいは古い長屋が建ち並ぶ、そのまち並みがそうさせているのか、人と人との距離の近さを感じます。もちろん、それは決して嫌な距離感じゃありません。むしろ心地いい距離感と言ってもいいかもしれません。それは飛田さんのこんな言葉からも伺えます。

「たぶんみんな気にしてるし、なんか今日会わないと大丈夫かなみたいな。毎日くるけど、今日来なかったら、なんか調子悪いのかなとか。みんな気にはかけてる。だからひとり暮らしの人は、そういうコミュニケーションをちゃんと取れてれば、安心かも。それはいいですよね」

だからこそ、このまちについて聞くと彼女の口からはこんな言葉が出てきたのだと思う。

「暮らしの一部だからね」

もちろん、それはお店を持っていることも大きいけれど、でも何より、ウィヴァネストペンギンが2021年4月にオープンした時点で、長屋をともにするサテライトキッチンはそのときすでに7周年を迎えていたことが大きかったのだと思います。実際、ウィヴァネストペンギンとサテライトキッチンをつなぐ穴が実現したのも、長い年月で得た信頼と、大家さんの理解があってこそでした。

「前例としてね、小畑くんと灰谷さん(サテライトキッチンとムームーコーヒー)が隣で、改装していい感じになってるのも大家さんはみてるし、お客さんもずっと続いてるから。そういうのもあったからいいよって言ってくれたのだと思う。7年ってすごいなって」

そんな長屋をともにするふたりは、もともとは同じバンドーー小畑さんのインタビューにも出てきたグーミーーのメンバー同士。バンドが解散しても、同じ場所でお店を営むことになるなんて、きっとその頃は考えもしなかっただろうけれど、その関係性は10年前も今も変わりません。

「いろんなアーティストとか、作家さん呼んだり、イベント組んだり、仕掛けたりみたいなのって、ずっとバンドやってるときと変わってないなってよく話してます」

それもバンド時代からの友人や知人を呼ぶことも多く、その頃から知っている人がくると、まるで時が止まったように見えるかもしれません。それくらい変わらない姿があります。でももちろん、それぞれがそれぞれのかたちーーお店を持ったり、好きなことが仕事になっていたり、結婚したり、子どもがいたりーーで成長はしているのだけど。

「まちのちいさなお母さんになりたいですね。子どもも、おじいちゃんも、おばあちゃんも気軽に相談できるっていうか、ウェルカムな、なんかそういうお店にして行きたいなって思ってやってます」

ウィヴァネストペンギンには、お子さんもご年配の方々も関係なくーーそれどころかネコやスズメが入ってくることもあるのだとかーー訪れては、なんでもない話に花が咲きます。そんな光景を見ていると、もうまちのお母さん的な役割を担ってっていると言ってもいいのかもしれません。つまりそれは、家でも学校でも職場でもない、誰かにとっての第三の場所にもなっているのだと思います。

「勤めたりもいろいろしたけど、やっぱ好きなことをずっと続けてたいですね。たのしく。いろいろ山あり谷ありあるとは思いますけど」

「たのしく」あるために彼女は今の生活スタイルを選んできたのだといいます。もちろん、たのしいことばかりではないけれど。実際、バンド活動中はなかなかアイディアを出すことができない自分に悩んでいたこともありました。でもそんなときに小畑さんに言われた一言が今でも飛田さんの支えになっています。

「小畑くんに、もっとオーダーに応えられる引き出しを増やすとか、その得意な方をもっと伸ばせばいいみたいに言われて、なんかそれを言われたときはめちゃめちゃ気持ちが楽になったっていうか。めちゃめちゃ救われたかな。そこをずっと劣等感みたいに感じてたから。自分には才能がないみたいに思ってたけど、そうじゃないって思わせてくれた一言でした。それは今になっても、仕事につながってるっていうか、オーダーされたものに応えるっていうのは、変わってないなっていうのは思います。それに対しての引き出し増やすっていうのも、お直ししてても、こういう直し方、こんな直し方があるみたいな、提案もできるじゃないですか。もっとわたしも勉強してかなきゃいけないことはいっぱいですけどね」

お店で多種多様なミシンに囲まれている彼女の姿を見て、まるでドラムセットに囲まれてるみたいだね。と近所の方に言われたこともあったのだとか。ドラマーとお直し屋さんという、まったく違う職種のようでいて、やっぱりどこかでつながっているのかもしれません。

たんすの奥にしまった捨てられない、お気に入りの洋服を久しぶりに引っ張り出してみると、ひょっとするとそんなーーかつての思い出と今の自分にーー思わぬつながりを感じられるかもしれません。そのときは、お直しかリメイクをオーダーしに、ウィヴァネストペンギンに足を運んでみるのもいいかもしれません。

(おわり)

ウィヴァネストペンギン〜京島•曳舟•押上 洋服のお直しカフェ〜

場所:東京都墨田区京島3丁目48−3

営業時間:12:00~18:00

定休日:火水

Instagram:@w.n.penguin

*営業日、営業時間については、SNSなどでご確認ください。

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