髪も髭も長く伸ばし、メガネをかけた風貌と聞くと、なんだか寡黙で仏頂面で、近寄りがたい店主を想像しがち。でもまったく正反対なほどに店主はいつも明るく和かなオーラを放っていて、足を踏み入れやすい雰囲気が出来上がっていました。
「素の自分でいたほうがラクじゃないですか。だからなるべく素の自分で対応できるようにしてて。そのほうがお客さんもよくないすかね。だから来たら“どうも”みたいな感じで出迎えて、なるべくともだちみたいな感覚で、メニューもとるし、はなしもするしみたいにすると、いい店になるんじゃないかなとは思ってます」
喫茶ケルンも入るシェアレンタルスペース「ケルン」に新しい顔が入りました。「新しい顔」と思わずそう表現したのは、違和感なく「ケルン」のカウンターに入っていたからかもしれません。その風貌のせいか、あるいはその笑顔のせいか、まるでずいぶん前からそこにいたような気がするほど「ケルン」に馴染んでいました。そんな素のハンバーガー屋さんマーコリーズダイナーの店主・清水さんにお話をお伺いしました。

なかなか一歩踏み出せないんで、ここでやるって言ってもらえたのが、逆に良かったっすね。
これだけケルンに馴染んでいる清水さんは、北本市出身です。でもケルンを知ったのは、つい最近のことでした。
「シェアキッチンをやりたいなっていうのはあって、大宮とかいろいろ探してみたんですけど。値段が高くって。もっと近いところがいいなと思って北本調べてみたら、なんだ、あるじゃんって。それで(北本市)観光協会の岡野さんにやりたいですって話をしに行って、話したのは3月始めだったと思うんですけど。じゃあ3月31日にプレオープンしようぜみたいな話になって(笑)」
3月にお願いに行って、3月に開始する。あまりにも早い出来事についていけそうにないけれど。清水さんはむしろそれが良かったと言います。
「早いすっよね、びっくりしましたよ(笑)でも自分では試作とかいろいろやってたんで、あとはちょっとした機材を集めるだけだったので、どうにかいけると思って(笑)いけるときにいかないと、やんないじゃないですか。なかなか一歩踏み出せないんで、ここでやるって言ってもらえたのが、逆に良かったっすね。」
確かにやるやると言っても、誰かに背中を押されないとなかなか進まないことも多い。気づけばできない理由や、やらない理由を考えてしまったり。そう思うと誰かに強引にでも引っ張ってもらうのは、大事なことなのかもしれません。
でもじつは前職を辞めるときは、奥さんやご両親には告げず、こっそり退職しました。それもそのはずーーその風貌からは想像もつかないけれどーー前職は中学校の先生でした。いろいろ大変な話は漏れ聞こえてくるけれど、安定はしています。
「言わなかったっす。止められるので絶対。事後報告もいいところですよね。でもそうじゃないですか実際、誰かに相談しても。いろんなところで相談はしてたんすよ、まぁ呑み屋なんですけど。でもやっぱ止められるんですよ。教員やってて、家族もいて、飲食店なんかやめた方がいいよみたいな話しか聞かなくて、だから結局最後に決めるのって自分じゃないですか」

おいしいし、手軽に食べられるし、幸せな気持ちになれるし、なんかいいことしかねぇなって思うんですよね(笑)
背中を押されないとできないこともあるけれど、その最初の一歩を踏み出すのはやっぱり自分自身以外にありません。そして教員を辞めて、個人店のハンバーガー屋さんでの約1年間のバイトを経て、ケルンでのオープンに至りました。
「いい経験になりましたね。飲食やるの初めてだったんで。接客業だったり、ホールの回し方とか、キッチンに入ってどうやって焼くのかとか、あとは経営のノウハウとか、そういうのも見させてもらったんですよ。売り上げとか、見させてもらっていいですかとか言って。これぐらい儲かってんだとか、結構人件費かかんだなとか。年間の売り上げだとか、原価率の話とかそういうのも全部教えてもらって、なんとなく飲食店で食っていくにはどうしたらいいのかっていう、マーケティングみたいなものは、そこである程度教えてもらって、ありがたかったっすね」
しかし、そもそもなぜハンバーガーだったのでしょうか。
「ハンバーガーって嫌いな人っていないっすよね。って思ったんですよ。わたしも大好きですし、ハンバーガーが嫌いっていう人は聞いたことがないっていうか、まだ出会ったことがなくて。たしかにお肉が苦手っていう人はいますけど、じゃあお肉じゃなくてベジバーガーとかも言われれば作れるので。って考えると嫌いな人はいないし、おいしいし、手軽に食べられるし、幸せな気持ちになれるし、なんかいいことしかねぇなって思うんですよね(笑)っていうのもあってハンバーガーやりたいなって思いましたね」
ベジバーガーもできるけれど、何より嬉しかったのは、お肉が苦手な人に美味しいと言われたことでした。
「食べたあとにお肉苦手だったんだけど、お肉って美味しいののねって、ハンバーガーって美味しいのねって言われたときは嬉しかったっすね。まだまだだとは思うんですけど、でもなるべく自分の中で美味しいお肉を使いたいっていうのがあったので、だからちゃんとこだわって良かったなって思いましたね。お客さんがおいしい、うまいって、言ってもらえるのが一番嬉しいっすよね。単純に。」

家族の時間を作りたいっていうのもどっかにあったかもしれないです。
そこで気になるのは、そのお肉(パテ)へのこだわりです。
「お肉はUSビーフのアンガス牛っていうのを使ってて、そこのチャックアイロール(肩ロース)っていう肩の肉を使ってるんですね。肩ロースって、いっぱい動く場所なので、身が引き締まってて、脂身が少ない、赤身肉なんですよ。で、さらにサイドネックっていうのと、サイドリブって場所があって、肩の首の方がよりジューシーなんですよ。だからステーキ肉でよく使われる部位なんですけど、赤身が好きだったんで、焼くとジューシーになるし、歯ごたえもあるし、肉肉しさもあるし、ていうところでパティはそこを絶対使うと思って、そこはまず一つこだわってますね」
そしてバンズはじつはCOUCHI POTATOさんと同じ北本市にある壱番館さんに頼んで作ってもらっています。そんなお肉へのこだわりとバンズをパン屋さんに依頼するほどのこだわりからは、もう店舗を開く未来が見えて来るようです。
「そうですね、シェアキッチンなんですけど、1週間やってみたんですよ。日曜日から土曜日まで、土日は多いじゃないですか、お客さんも。平日も全部やってみて流れもわかってきたんで。最初(教員を辞めたとき)はがっかりされましたけど、だんだんと家族も理解してきてくれてるので、自分の店舗をオープンしたら、嫁さんも手伝ってくれるって話になってきたので。家族経営でやって行きたいって思ってます。」
きちんと売り上げも上げて、実績を示したからこその理解なのかもしれません。家族と言えど、子どももいるとなかなか踏み出せないと思うパパ、ママは多いけれど、でもそれが家族の時間につながると思うと、その選択もありかもしれません。
「家族で楽しくできるのが一番かなと思って。教員やってるときは、ほぼほぼ家にいなかったんで。育児もしませんでしたし、できなかったので。家族の時間を作りたいっていうのもどっかにあったかもしれないです」
実際、お店にはお子さんがお手伝いで立つ姿も見かけます。なかなか親のはたらく姿を見ることができない時代に、その姿を見られるのはお子さんにとっても貴重かもしれません。

どうせやるんだったら楽しんだ方が回ると思うんですよね。
「楽しむですかね。」
そんな清水さんに「はたらく」について聞くと、そんな言葉が返ってきました。じつは清水さん、教員の前にもジムでスポーツトレーナーをやっていた時期もありました。そして今もマーコリーズダイナーを開かない日には、別の仕事をしています。でもどの仕事も共通して言えるのが楽しむこと。
「やっぱり楽しくないと何もできないじゃないですか。ざっくばらんで雑ですけど(笑)自分が楽しければ、楽しい気持ちって伝染すると思うんですよね。自分がつまんなさそうに仕事してたら、やっぱりつまんない仕事になっちゃいますし、教員のときもつまんなさそうな顔して教室に入ると、生徒もそれに気づいて、晴れない顔をするし、その日の授業がうまくいかなかったりするので、やっぱり気持ち的にはつらいときもありますけど、空元気に能天気に見えますけど、そうやって楽しんだほうが、わたしと接してる人もそういう気分になるんじゃないかなと思いますし、どうせやるんだったら楽しんだ方が回ると思うんですよね。いろいろ。仕事でも遊びでも。何でも。って思うので。はたらく=たのしむが一番当てはまるのかなと思いますね」
ひねりがなくてすみませんと言われたけれど、でもこの想いがマーコリーズダイナーさんのお店の雰囲気を作っているのだと思います。そしていつものもう一つの質問を投げかけると元教員らしい答えが返ってきました。
「北本の土地柄なのかわかんないですけど、ライバル視をしないし、楽しくやろうぜみたいな、のんびりやってこうぜみたいな、そういうゆっくりした時間が流れているというか、でもちゃんとみんなやることやってるし、自分が素でいられる居場所っていうのが北本なんじゃないかなって思います。だってみんな気取ってないじゃないですか。話してみると全然、みんな素だし、人対人でそれぞれが居場所を作ってくれるまちですかね」
「教員やってたので、ひとりひとりの居場所を作るのが教員の仕事だみたいなのがあって、やっぱ頑張りました。生徒がひとりでいたら声かけたり、そういうのもやってたので、でもそれが自然にできてると思うんすよね。北本って。そういうひとりぼっちにならないまちと言うか、このまちを大きい教室だと考えると、それぞれがお互いに居場所を作ってくれて、みんな楽しいまちみたいな感じがしますね。みんな楽しそうだし。ブスッとしてる人いないですよね。みんなニコニコしてて、また行きたくなるし。先生のいない教室ですね(笑)」
マーコリーズダイナーもそんな場所なのだと思う。ぜひハンバガーガーを食べたくなったら、足を運んでみてください。
(おわり)

MERCORY’s DINER マーコリーズダイナー
場所:埼玉県北本市中央1丁目38-4
営業時間:月・火・木
ランチ11:30〜15:00(L.O14:30)
ディナー17:30〜21:00(L.O20:30)
金・土
ランチ11:30〜15:00(L.O14:30)
ディナー18:00〜24:00(L.O23:00)
定休日:水・日
Instagram:@mercorys_diner
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