特集:21世紀の百姓解剖論「ヤスノサトミ」純度100パーセントでいられる場所*前編*

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「あそぶこと」

 はたらくことについて訊くとそんなことばが返ってきました。そう言えば、北本市観光協会の岡野さんに話を聞いた際も似たような答えが返ってきたことを思い出しました。それはまちについてでしたが、どうやら北本はそんなことばがよく似合う場所なのかもしれません。今回お話を聞いたのは、そんな岡野さんをはじめとした暮らしの編集室が運営するレンタルシェアスペース「ケルン」で、2021年夏より「喫茶ケルン」を担当しているヤスノサトミさんです。

text & edit by Esaki Nariya

「欲しいけど、ないものは自分でつくる」

「ケルンを開けとく仕事があるよ」

「え、やりたいです!って即座に答えました」

 2021年春、それは、北本団地にオープンしたジャズ喫茶「中庭」のオープニングイベントのことでした。

「ちょうど、自分にとってより良いはたらき方や仕事について考えてた時期で、何より大好きな北本の、大好きな場所「ケルン」ではたらけるなんて、心が躍りましたね。でも少しお酒が入ってたこともあって、”ケルンを開けておく仕事”の意味を深くは考えてませんでした」

「じゃあ、何やりたいか考えといて」

「えっ、どういうことですか?って思って。そしたら、ケルンを作ったけど、今はまだオープンしてる日が少ないから。どんな場所か知ってもらうためにも、まずはケルンを開けておく日を増やしたいって」

 そう話してくれたのは、ケルンの運営・管理をしている暮らしの編集室の江澤さん。

「とりあえず夏だからかき氷やったらいいんじゃない、ネットでかき氷機買ったから」

「あ、はい。じゃあシロップ考えます!ってそういう感じで始まりました」

 名前の由来も「ケルン」という場所で喫茶を開いているから、「喫茶ケルン」。なるほど、たしかに他の出店者とは事情が違うように思っていたけれど、この話を聞いて納得。そんなふうに受身のように流れに身を任せてーーもっとも仕事が欲しいと言ったのは彼女なのだけどーー始まった「喫茶ケルン」。でもケルンの喫茶という意味を超えて、彼女らしいお店に徐々に姿を変えていきました。

「かき氷の季節が終わって、次、何をしようと思って。かき氷の頃から、北本産の食材を使ったり、牛乳を使わず豆乳を使ってシロップを作ったりしていたので、そこは変えずにいこうと思ってました。自分がグルテンフリーをしていて、食べられる焼き菓子が少なかったので、グルテンフリー&ヴィーガンの焼き菓子を作ろうって思いました。」

 そうして始めたのが、小麦粉も、卵も、バターも使わない北本産米粉のスコーンでした。都内では見かけるけれど、このあたりでは見かけないから、自分で作っちゃえという、実は根っこは自発的なタイプ。

「そう、だから欲しいけど、ないものを自分で作る。そういう感じで、米粉スコーンを始めていって。そこから、スコーンの幅を広げるために、間に挟むスコーンサンドが始めました」

 ないものは自分で作る、けれど、スコーンサンドに挟んだのは、実は、かき氷のメニューのひとつでもあった「塩ミルクあずき」の小豆でした。

「あんこがおいしいっていうのは、自分でも思うし、お客さんとかにも食べてもらって、おいしいねって言ってもらってたから、あんこは続けたいなと思って」

 そうしてできたのが「餡バタースコーンサンド」。でも「あん」はスコーンだけでは収まりませんでした。

「餡子を1回炊いて、余っちゃったらもったいないから、おはぎにしようって」

 かき氷の塩ミルクあずきの餡はスコーンサンドに姿を変え、おはぎにまで変貌しました。おはぎの始まりが、実はかき氷のメニューから発想されたなんて誰も思わないかもしれません。それにしてもないものを自分で作る彼女は、あるものを生かすのもうまいようです。

「そうですね、今までもそんな風に生きてきた気がします。あるものをどう生かすかって。これとかもおじいちゃんの服だし」

 そうして見せてくれた、着ていた濃いめのグリーンのシャツは、たしかに丈が長め。でも違和感なく着こなせているせいか、言われるまでは気づきませんでした。

「親も割とそうだったかな、やっぱり新しいものに憧れて、みんなとお揃いのものが良いと思ってた時期もありました。でも絵の具セットは、兄のお下がり。まぁ、それはあるあるですけど。学習机は、おばさんが使ってたやつ(笑)椅子は新しいの買ってあげるからって、お兄ちゃんは新しい机買ってもらって使ってるのに、わたしはおばさんのお下がり。なんでだよって思って。そのときは納得できなかったけど、でも今はその机の方が気に入ってます。昔からあるものの良さを感じるようになって。今となっては古道具が大好きですね。あるじゃん、買わなくてもって」

 そんなご両親からの影響もあってか、あるものを生かす感性が育ったのかもしれません。そして餡子があまったことで、生まれたおはぎは、北本産の食材を生かすのにも適していました。

「お菓子だと、米粉があって、オイルがあって、砂糖があってって、使う食材はある程度決まってるんです。でも、おはぎは、けっこう自由っていうか。小豆もそうだし、古代米、さつま芋やむらさき芋を使って芋あんとか、北本の農家さんの食材をたくさん使えるんです。」

 そして北本産の胡麻(量に限りがあるためいつも北本産ではありません)、他にもしいたけ、ゆず、磯辺(海苔しょうゆ)などなど、お菓子の枠には留まらないアイディアが湧いては、試作し、パッケージも考えてーーお彼岸の時期からはセット売りも始まり、軌道に乗っていくと彼女の仕事は、おはぎ同様、喫茶ケルンに留まらない動きを見せはじめます。

(つづきます)

喫茶ケルン

住所:埼玉県北本市中央1丁目109-105

営業時間:10:00~17:00

営業日:金曜日〜日曜日

Instagram:@_tsumiishi_ 

*シェアキッチンスペース「ケルン」のSNSです。

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