
「八百屋さんになりたかったんですよ」
いつ以来かわからないほど久しぶりに訪れたサテライトキッチンの店先では、月に一度の軒先販売が行われていた。お客さんが言う野菜を袋に詰めながら、文字通り八百屋になりきっている小畑さんはそう言って続けた。
「子どもの頃って、パン屋さんとか、ケーキ屋さんとか、学校の先生になりたいのって、実際に見て知ってるのがそれくらいしかないからですよね」
当たり前と言われればそうかもしれないけれど、言われてみるまで気づかないことは多い。これはまさにそんな目から鱗のような、いや、青天の霹靂と言ってもいいほど衝撃が走った。なぜって、自分がこうしてウェブマガジンをやっている理由を言語化されたような気がしたからだ。
わたしは常々そう思っていたはずなのに、なんだか気づかないでいたような気がする。人生100年時代においては、老いも若きもない。子どもたちのためと言う気はないけれど。思えば、我が子たちももう生まれて5年と3年がすぎた。今回の取材をしている間、なんだかそんなことが頭を何度もかすめた。そう老いも若きもない。いくつになったって、挑戦してもいいのは間違いない。だって50歳でやっと折り返しの時代においては、その折り返しで新しいことを始めても70まで元気でやれば20年のベテランだ。だからぼくは、大人にもっと知って欲しいと思っていた。いろんな生き方があることを、いろんなはたらき方があることを。けれど、そもそもそれを知らずに大人になった子どもたちが、これしかないという既成概念にとらわれて生きているのだとしたら、そんな子どもたちに向けても書くべきなのかもしれない。そんなことに気づかされたインタビューでした。
text & edit by Nariya Esaki
「バンドでかっこいい人になりたいと思ってたけど、ちょっと自分では想像していなかった。ヴァイオリンをバンド界隈で弾く人になった」
18時55分、歌とヴァイオリンが山形県大石田町にある図書館に響きます。
ヴァイオリンを弾いているのは、墨田区京島でハーブスタンド・サテライトキッチンを営みながら音楽家としても活動する小畑さん。そんな小畑さんは5歳の頃から、ヴァイオリンに親しんできました。
「ヴァイオリンは結局、5歳から20歳ぐらいまで先生のところで習って、ストリングス(オーケストラ)にも20歳ぐらいまで出入りしてた感じですね」
でも小畑さんは中学生にもなると、うたを歌いたいと言う思いから、ギターを手にするようになります。
「ずっと歌いたくて、でもヴァイオリンを弾きながらじゃ歌えないなと思って、ギターを弾き始めたのが中学生。そんときにもう曲を作り始めてて、音楽は好きだし、音楽家になりたいとは思ってたけど、クラシックを演奏するとかではなく、自分で曲を作れる人間になりたいっていう感覚が強かったですね」
いきなり作曲から始める。それはきっと音楽の基礎をヴァイオリンでしっかり培ってきたからかもしれないけれど、オリジナル曲から始めるという姿勢は、思えばその後の小畑さんが形成されていった原点とも言えるかもしれません。それはこんな言葉からも伺えます。
「高校入って、オリジナルのバンドやろうと思ったら、いきなりオリジナルをやる人とか誰もいなくて、どうやらコピバンっていうのがあるらしいって(笑)」

小畑さんにはオリジナルではない、既成の曲を演奏するコピーバンドという発想すらありませんでした。そんな同級生ばかりのなか唯一、オリジナル思考だったのは、のちに結成するバンド「グーミ」としても一緒に活動する藤井さんだけでした。
「最初はちょっとコピーもやってたけど。基本オリジナルをやるつもりでバンドを組んだのが藤井さん。それでライブハウスとか行き始めて、でも高校卒業したあと、ドラムが抜けちゃって。だから大学生のときは、ドラムがいない状態で、藤井さんと曲作りとかやったりしてましたね」
もともとテクノ(楽器を使わない電子音楽)が好きだったこともあり、ここからサンプラーやリズムマシンを駆使して、自宅での録音、いわゆる宅録を始めます。この頃はバンド活動らしいバンド活動を行うことはできませんでしたが、ようやく22歳の頃に、ドラマーを見つけて「グーミ」を結成します。
「最初はヴァイオリン弾いてなくて、基本ギターボーカルだったんですけど、続けてるうちにヴァイオリンをどうにか取り入れられないかと思うようになって」
かつてはヴァイオリンでは歌えないと思い、ギターを手にしたけれど、今なら、歌えるかもしれないと、ヴァイオリンを弾きながら歌うことを訓練し始めました。そうすると、そもそもバンドやライブハウス界隈ではヴァイオリニストが珍しかったこともあり、大きな価値が生まれました。
「そのときは、ヴァイオリンではやっていかないだろうって自分では思ってたけど、やってるうちにいろんなところから声がかかるようにもなって。ヴァイオリンとギターのユニットDawn Peopleが始まったりとか。バンドでかっこいい人になりたいと思ってたのに、自分では想像しなかった、ヴァイオリンをバンド界隈で弾く人になってましたね」
5歳から始めたヴァイオリンは自ら、プレイヤー(弾く人)の気持ちをよそに、思ってもみない方向に舵をきり始めていました。それもCD2枚をインディーズでリリースして、国内も海外もツアーに明け暮れた10年近く続いたバンドは、メンバーの出産を機に休止に向かっているそんなタイミングでした。
(つづきます)

Herb Stand サテライトキッチン
場所:東京都墨田区京島3丁目48−3
営業時間:12:00~18:30 (通常) 21:00-23:00(不定期)
定休日:火水(臨時休業有)
Instagram:@stllt_herb
*営業日、営業時間については、SNSなどでご確認ください。
小畑 亮吾
Music:https://songwhip.com/小畑亮吾
Twitter:@rygk_goomi
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